夢野久作ードグラ・マグラ21

夢野久作ードグラ・マグラ21

Published on Jun 21
14:03
本の朗読
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<p style="color:#333333;font-weight:normal;font-size:16px;line-height:30px;font-family:Helvetica,Arial,sans-serif;hyphens:auto;text-align:justify;" data-flag="normal"><span>といったような事だったと記憶しておりますが、これには</span>流石さすが<span>の斎藤先生も</span>呆あき<span>れておられましたようで……一緒に聞いておりました私も、少なからず驚かされた事でした。第一、こんな予言者めいた事を、正木先生が果して本気で云っておられるのか、どうかすら判然致しませんでしたので……正木先生がこの時、既に、自分自身で、そのような精神病者を作り出して、学界を驚ろかそうと計劃しておられた……なぞいうような事が、その時代にどうして想像出来ましょう。……のみならず正木先生が、かような突拍子もない事を云って人を驚かされる事は、その頃から決して珍らしい事ではありませんでしたので、斎藤先生も私も、この事に就いては格別に不審を起した事もなく、深く突込んで質問した事なぞもありませんでした。</span><br /><span> ……ところが間もなく、</span>斯様かよう<span>な斎藤先生の御不満が、正木先生の天才的頭脳と</span>相俟あいま<span>って、当時の大学部内に、異常な波瀾を捲き起す機会が参りました。それは、ちょうど、私共が当大学を卒業致します時で、正木先生が卒業論文として『胎児の夢』と題する怪研究を発表されたのに、</span>端たん<span>を発したので御座いました」</span><br /><span>「……胎児……胎児が夢を見るのですか」</span><br /><span> と私は突然に頓狂な声を出した。それ程に</span><span>胎児の夢</span><span>という言葉が、異様な響きを私の耳に与えたのであった……が……しかし若林博士は</span>矢張やは<span>りチットモ驚かなかった。私が驚くのが如何にも当然という風にうなずいた。手にした書類を一枚一枚、念入りに繰り拡げては、青白い眼で覗き込みながら……。</span><br /><span>「……さ...
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