夢野久作ードグラ・マグラ29

夢野久作ードグラ・マグラ29

Published on Jul 2
06:01
本の朗読
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<p style="color:#333333;font-weight:normal;font-size:16px;line-height:30px;font-family:Helvetica,Arial,sans-serif;hyphens:auto;text-align:justify;" data-flag="normal"><span> 五</span><br /><br /><span> ▼スカラカ、チャカポコチャカポコチャカポコチャカポコ。あ――ア――あア――ア。エ――エ。さても皆さん</span>斯様かよう<span>な次第で。一人のキチガイ患者が出ますと。ほかの病気と</span>品事しなこと<span>かわって。あとに残った正気の家族が。あるにあられぬ責め苦を受けます。トテモこうして</span>自宅うち<span>へは置けない。どうかせねばと思案をしても。どうも仕様が見当りませぬ。とかくするうち無理算段した。金は無くなる、仕事は出来ない。やがて一家が</span>干乾ひぼ<span>しは眼の前。さても切なや、悲しや、</span>辛つ<span>らや……チャカポコチャカポコ……</span><br /><span> ▼あ――ア。さても切なや、悲しや、辛らや、それも吾身は露いとわねど、お年寄られた親様はじめ。可愛い</span>吾児わがこ<span>の行末までも。生きて甲斐ない一人のために。棄てて介抱するのが道理か。人に迷惑かけないうちに。患者もろとも首でも</span>縊くく<span>って。一家揃うて死ぬのが道かや。何の因果で</span>斯様かよう<span>な</span>憂う<span>き目と泣いて怨めど肝腎カナメの。当の患者はアラレヌ眼付きで。キョロリキョロリとしているばっかり……チャカポコチャカポコ……</span><br /><span> ▼あ――ア。キョロリキョロリとしているばかりじゃ。もとの姿は残っていても。元の心は</span>藻抜もぬ<span>けの殻だよ。人の形をしているだけに。犬や猫より始末が悪いよ。情ないとも何とも</span>彼か<span>とも。なろう事なら代ろうものをと。歎き</span>悶もだ<span>えた</span>揚句あげく<span>の果てが。</span>切羽せっぱ<span>、詰まった大罪犯す……...
夢野久作ードグラ・マグラ29 - 本の朗読 - 播刻岛