夢野久作ードグラ・マグラ20

夢野久作ードグラ・マグラ20

Published on Jun 19
08:33
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<p style="color:#333333;font-weight:normal;font-size:16px;line-height:30px;font-family:Helvetica,Arial,sans-serif;hyphens:auto;text-align:justify;" data-flag="normal"><span> 若林博士は、こう説明しつつ大</span>卓子テーブル<span>の前に引返して、ストーブに面した小型な廻転椅子を指しつつ私を振り返った。私はその命令に従って手術を受ける患者のように、恐る恐るその椅子に近付くと、オズオズ腰を</span>卸おろ<span>すには卸したが、しかし腰をかけているような気持ちはチットモしなかった。余りの気味悪さと不思議さに息苦しくなった胸を押えて、</span>唾液つば<span>を呑込み呑込みしているばかりであった。</span><br /><span> その間に若林博士はグルリと大卓子をまわって、私の向側の大きな廻転椅子の上に座った。最前あの七号室で見た通りの恰好に、小さくなって曲り込んだのであったが、今度は外套を脱いでいるためにモーニング姿の両手と両脚が、</span>露あら<span>わに細長く折れ曲っている間へ、長い</span>頸部くび<span>と、細長い胴体とがグズグズと縮み込んで行くのがよく見えた。そうしてそのまん中に、顔だけが</span>旧もと<span>の通りの大きさで</span>据す<span>わっているので、全体の感じが何となく妖怪じみてしまった。たとえば大きな、蒼白い人間の顔を持った大</span>蜘蛛ぐも<span>が、その背後の大暖炉の中からタッタ今、私を</span>餌食えさ<span>にすべく、モーニングコートを着て</span>匐は<span>い出して来たような感じに変ってしまったのであった。</span><br /><span> 私はそれを見ると、自ずと廻転椅子の上に</span>居住居いずまい<span>を正した。するとその大蜘蛛の若林博士は、悠々と長い手をさし伸ばして、最前から大卓子の真中に置いたままになっている書類の綴込みのようなものを引寄せて、膝の下でソッと</span>塵ごみ<span>を払いながら、小さな咳払いを一つ二つした。</span><...