夢野久作ードグラ・マグラ14

夢野久作ードグラ・マグラ14

Published on Jun 5
11:30
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<p style="color:#333333;font-weight:normal;font-size:16px;line-height:30px;font-family:Helvetica,Arial,sans-serif;hyphens:auto;text-align:justify;" data-flag="normal"><span>しかし私はもとの通り、狐に</span>抓つま<span>まれたように眼を</span>瞠みは<span>りつつ、寝台の上を振り返るばかりであった。……見た事もない天女のような少女を、だしぬけに、お前のものだといって指さされたその気味の悪さ……疑わしさ……そうして、その何とも知れない馬鹿らしさ……。</span><br /><span>「……僕の……たった一人の従妹……でも……今……姉さんと云ったのは……」</span><br /><span>「あれは夢を見ていられるのです。……今申します通りこの令嬢には最初から</span>御同胞ごきょうだい<span>がおいでにならない、タッタ一人のお嬢さんなのですが……しかし、この令嬢の一千年前の祖先に当る婦人には、一人のお姉さんが</span>居お<span>られたという事実が記録に残っております。それを直接のお姉さんとして只今、夢に見ておられますので……」</span><br /><span>「……どうして……そんな事が……おわかりに……なるのですか……」</span><br /><span> といううちに私は声を震わした。若林博士の顔を見上げながらジリジリと</span>後退あとずさ<span>りせずにはおられなかった。若林博士の</span>頭脳あたま<span>が急に疑わしくなって来たので……他人の見ている夢の内容を、</span>外ほか<span>から見て云い当てるなぞいう事は、魔法使いよりほかに出来る筈がない……</span>況ま<span>して推理も想像も超越した……人間の力では到底、測り知る事の出来ない一千年も前の奇怪な事実を、平気で、スラスラと説明しているその無気味さ……若林博士は最初から当り前の人間ではない。事によると私と同様に、この精神病院に収容されている一種特別の患者の一人ではないか知らんと疑われ出したので……。</span><br /><span> けれども若...