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<p style="color:#333333;font-weight:normal;font-size:16px;line-height:30px;font-family:Helvetica,Arial,sans-serif;hyphens:auto;text-align:justify;" data-flag="normal"><span>「寒くない?」</span><br /><span>「ええ、少し。霧でお耳が濡れて、お耳の裏が冷たい」</span><br /><span> と言って笑いながら、</span><br /><span>「お母さまは、どうなさるのかしら」</span><br /><span> とたずねた。</span><br /><span> すると、青年は、とても悲しく慈愛深く</span>微笑ほほえ<span>んで、</span><br /><span>「あのお方は、お墓の下です」</span><br /><span> と答えた。</span><br /><span>「あ」</span><br /><span> と私は小さく叫んだ。そうだったのだ。お母さまは、もういらっしゃらなかったのだ。お母さまのお</span>葬とむら<span>いも、とっくに済ましていたのじゃないか。ああ、お母さまは、もうお亡くなりになったのだと意識したら、言い知れぬ</span>凄さび<span>しさに身震いして、眼がさめた。</span><br /><span> ヴェランダは、すでに</span>黄昏たそがれ<span>だった。雨が降っていた。みどり色のさびしさは、夢のまま、あたり一面にただよっていた。</span><br /><span>「お母さま」</span><br /><span> と私は呼んだ。</span><br /><span> 静かなお声で、</span><br /><span>「何してるの?」</span><br /><span> というご返事があった。</span><br /><span> 私はうれしさに飛び上って、お座敷へ行き、</span><br /><span>「いまね、私、眠っていたのよ」</span><br /><span>「そう。何をしているのかしら、と思っていたの。永いおひる寝ね」</span><br /><span> と面白そうに...