夢野久作ードグラ・マグラ18

夢野久作ードグラ・マグラ18

Published on Jun 9
11:12
本の朗読
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<p style="color:#333333;font-weight:normal;font-size:16px;line-height:30px;font-family:Helvetica,Arial,sans-serif;hyphens:auto;text-align:justify;" data-flag="normal"><span>「……さあ……それにつきましても私は迷わされましたもので、要するにこの一文は、標題から内容に到るまで、徹頭徹尾、人を迷わすように仕組まれているものとしか考えられませぬ。……と申します理由は外でも御座いませぬ。この原稿を読み終りました私が、その内容の不思議さに眩惑されました結果、もしやこの標題の中に、この不思議な</span>謎語なぞ<span>を解決する鍵が隠されているのではないか。このドグラ・マグラというのは、そうした意味の隠語ではあるまいかと考えましたからで御座います。……ところが、これを書きました本人の青年患者は、この原稿を僅か一週間ばかりの間に、精神病者特有の精力を発揮しまして、不眠不休で書上げてしまいますと、</span>流石さすが<span>に疲れたと見えまして、夜も昼もなくグウグウと眠るようになりましたために、この標題の意味を尋ねる事が、当分の間、出来なくなってしまいました。……といって</span>斯様かよう<span>な不思議な言葉は、字典や何かには一つも発見出来ませぬし、語源等もむろんハッキリ致しませぬので、私は一時、行き詰まってしまいましたが、そのうちに又、</span>計はか<span>らず面白い事に気付きました。元来この九州地方には『ゲレン』とか『ハライソ』とか『バンコ』『ドンタク』『テレンパレン』なぞいうような旧</span>欧羅巴ヨーロッパ<span>系統の</span>訛なまり<span>言葉が、方言として多数に残っているようですから、</span>或あるい<span>は、そんなものの一種ではあるまいかと考え付きましたので、そのような方言を専門に研究している篤志家の手で、色々と取調べてもらいますと、やっとわかりました。……このドグラ・マグラという言葉は、維新前後までは</span>切支丹伴天連キリシタンバテレン<span>の使う幻魔術のことをいった長崎地方の方言だそうで、只今では単に手品とか、ト...