太宰治ー斜陽14

太宰治ー斜陽14

Published on Jun 5
14:46
本の朗読
0:00
0:00
<span><br /></span><p style="color:#333333;font-weight:normal;font-size:16px;line-height:30px;font-family:Helvetica,Arial,sans-serif;hyphens:auto;text-align:justify;" data-flag="normal"><a style="color:#4990E2;text-decoration:none;">四</a></p><p style="color:#333333;font-weight:normal;font-size:16px;line-height:30px;font-family:Helvetica,Arial,sans-serif;hyphens:auto;text-align:justify;" data-flag="normal"><span> お手紙、書こうか、どうしようか、ずいぶん迷っていました。けれども、けさ、</span>鳩のごとく素直に、蛇のごとく慧かれ、というイエスの言葉をふと思い出し、奇妙に元気が出て、お手紙を差し上げる事にしました。直治の姉でございます。お忘れかしら。お忘れだったら、思い出して下さい。</p><p style="color:#333333;font-weight:normal;font-size:16px;line-height:30px;font-family:Helvetica,Arial,sans-serif;hyphens:auto;text-align:justify;" data-flag="normal"><span> 直治が、こないだまたお邪魔にあがって、ずいぶんごやっかいを、おかけしたようで、相すみません。(でも、本当は、直治の事は、それは直治の勝手で、私が差し出ておわびをするなど、ナンセンスみたいな気もするのです。)きょうは、直治の事でなく、私の事で、お願いがあるのです。京橋のアパートで</span>罹災なさって、それから今の御住所にお移りになった事を直治から聞きまして、よっぽど東京の郊外のそのお宅にお伺いしようかと思ったのですが、お母さまがこないだからまた少しお加減が悪く、お母さまをほっといて上京する事は、どうしても出来ませぬので、それで...