
0:000:00
犬が好きか猫が好きかと訊かれるたび、毎回、犬と答えてきた。<br><br>飼ったことはないのに私は犬が好きで、見るたび近づき、さわれそうならばすかさず さわった。猫が嫌いだったわけではない。むしろ好きだ。けれど猫はつれなくて犬は人なつこい。ときどき、スーパーマーケットの入り口でつながれ、店内を凝視して飼い主を待つ犬を見かけると、その姿のあまりのいとしさに髪をかきむしりたくなった。猫はそんなことはしない。犬の、あのシンプルで過剰な愛情を、私はより好きだった。<br><br>道で、外飼いされている猫や、野良猫がいれば、近寄って、さわらせてくれる猫は犬と同様さわらせてもらってはいた。さわらせてくれる猫のいる道を覚えて、わざわざそこを通り、猫を思うさまな撫でさすっていたこともある。でもそれは、なんというか代替行為だった。本音(ほん‐ね)は犬をそのようにしたいのだった。<br><br>犬を飼うことを夢想したことは何度もある。今まで一度も飼ったことがないので、即行動に移せない。でもいつか、と思っていた。<br><br><br>そう、うちにくるとしたら犬であって猫ではなかろうと、薄ぼんやりと思っていた。<br><br><br>二〇〇八年のことだ。漫画家の西原理恵子さんに仕事で会えることになった。私は二十代はじめのときから西原さんの大ファンである。緊張で卒倒しそうになりながらその場に向かい、仕事を終えて、編集者の方も交えて飲むことになった。西原さんのお宅では猫を飼っているという。雄雌二匹。ソラモーかわいいのだと言う。ソラモーかわいいだろうなあと思いながら話を聞いていると、<br><br><br>「うちの猫が子ども産んだら、ほしい?」と突然西原さんが訊く。<br><br><br> へっ、と思いながらも「ほしいです!」と答えていた。ほしいか、ほしくないか、と言われれば、ほしい。しかも夫は幼少時から猫を飼っていたという大の猫好きである。<br><br><br>「じゃあ、あげる」と西原さんは言った。六人子猫を待っている人がいるから、七番目ね。とのことであった。なんというか、私が漫画で見知っていたのとまったくおなじに豪快な人だなあ。